これは北見昌朗が2025年1月に発売する「中小建設業の賃金管理 これだけは知っておきたい」(仮称)の序文です。

「建設業の施工管理技術者の生涯年収3億円」の時代がやってきた

 読者諸兄姉にお尋ねしたい。もしも、この二人を比べた場合、生涯年収はどちらが高いと思われるだろうか?
 「工業高校建築科卒 1級建築施工管理技士 施工管理技術者 男性」
 「一流大卒 地方銀行勤務 男性」

 正解は、前者です。
 これまでの常識では、銀行員はエリートだったのかもしれません。しかしながら銀行業界が衰退産業に陥っているので、もはや高年収ではありません。50歳前後で出向させられるケースが多いし、残ったとしても50代半ばで役職定年となり年収がガタ減りします。60歳になると嘱託扱いになり年収は300万円程度になって、65歳でお払い箱に。
 これに対して施工管理技術者は60歳を過ぎていても働けるし、資格があれば年収もある程度は維持できます。そのため生涯年収が高いのです。本書は「施工管理技術者の生涯年収3億円」を紹介しますが、それは「これからそうなる」のではなく「すでにそうなっている」のです。
 施工管理技術者の生涯年収は、明らかに大卒のホワイトカラーを超えています。

 「本当に時代は変わったな」と筆者は感じています。
 筆者は中小企業を対象にした昇給賞与のコンサルタント業を行っており、業歴は30年以上です。おかげさまで多数の顧客に恵まれていて、あらゆる業種の賃金を見てきました。
 筆者が建設業に対して昔に抱いていたイメージは
 「長時間労働・休日が少ない」
 というもので、その年収に関しても特に高い気がしていませんでした。

 ところが、その基調が変わったのはほんの数年前からです。令和の時代になってからと言ってもいいでしょう。
 建設業の賃金はぐんぐん上がり、他の産業と比べると明らかに高くなりました。
 なぜ建設業の賃金は、これだけ上昇したのか要因を考えてみます。

 一つ目の要因は、政府の方針です。国土交通省や地方自治体は建設業の賃金の引き上げに熱心で、その入札にあたっては
「賃上げしていること」
「土曜日に休ませていること」
 などを求めてきます。
 また、労働基準監督署による指導も厳しくなってきて、サービス残業をさせることもできなくなりました。

 二つ目の要因は、建設を学ぶ学生が減ったことです。思い起こしてみますと「コンクリートから人へ」という時代がありました。その頃の建設業は不況を極め、倒産や廃業が多かった。おかげで建設業に対するマイナスイメージが付いてしまい、建築学科や土木学科の人気が下がって、工学部の中で一番応募者が少なくなりました。

 三つ目は、これが一番の要因かもしれませんが、若者の就労意欲の低さです。イマドキの学生数は昔の半分しかいません。若者の多くは大学に進学するので、卒業したらホワイトカラーになりたがります。手が汚れる仕事を嫌う傾向がありますので、建設業は特に敬遠されがちです。
 建設業は、入ってくる若者が激減したにもかかわらず、仕事量があるので、労働力の需給バランスが崩れたのです。そんな次第なので、建設業の賃金は今後も上昇しそうです。

 人手不足がひどくなるとともに雇用の流動化が激しくなりました。スカウト業者が高い紹介手数料を求めて活発に動いています。
 建設業の経営者は、雇用の問題が頭痛の種になっているようで、筆者にも建設業の会社からの相談が増えています。
 「ヨソはいくら払っているの?」
 「スカウトされてしまわないか心配」
 などという相談です。
 同時に増えてきたのはスカウトの失敗です。大した能力もない人を高い賃金で雇い入れてしまって後悔している経営者も増えています。

 本書では、昇給の仕方を解説しながら、高過ぎる金額で雇ってしまった人の年収の見直し方法も伝授させていただきます。
 賃金の支払い方は、建設業の経営者の悩みの種です。
 経営者のニーズに応えようとしたら、筆者は根拠となる賃金データが必要です。
 そこで筆者は、一つの志を立てました。
 建設業の賃金相場を調べることです。実際の賃金明細を集めて、有資格者ごとに分析して、相場を導き出すのです。おかげさまで建設業も独自な賃金統計も完成しましたので、本書でそれを披露するとともに、賃金制度作りの秘訣を披露させていただきます。

 それから本書は、建設業向けの技術コンサルタントである降籏達生氏との共著の形になっています。降籏氏とは同じ名古屋に在住して旧知の間柄です。建設業に精通した降籏氏が「人事評価の行い方」を執筆してくださったことで内容が濃くなりました。
 「現場によって条件が異なる建設業でどのようにして人事評価をすればよいのか」
という問いに応える内容です。
降籏氏にはあらためて御礼を申し上げます。

 2024年12月 (株)北見式賃金研究所 北見昌朗